Waseda Weekly早稲田ウィークリー

並んだ本から自分が見つかる!? 本屋対談 Title店主×本屋ライター

JR中央線?荻窪駅から徒歩10分。車がひっきりなしに通り過ぎる青梅街道沿いにある小さな本屋「Title」のドアを開けると、そこにあるのは外の喧騒とは打って変わった靜謐な雰囲気。穏やかに陽の光が差し込む店內には、せわしない街から解き放たれた居心地のいい空間が広がっています。

インターネットやスマートフォンの普及で、本を読む人は減っていると言われ、いつしか、出版業界は「斜陽産業」の代名詞となりました。しかし、本屋に足を運べば、いつの時代にも特別な時間が流れていて、人々は靜かにページをめくりながら、まだ見ぬ世界との出合いを味わっています。

今回は、大手書店チェーンから獨立し2016年に本屋「Title」を始めた辻山良雄さん(1997年政治経済學部卒)と、本屋ライターであり自身でも東京?下北沢で本屋のアンテナショップ「BOOKSHOP TRAVELLER」を営む和氣正幸さん(2009年第一文學部卒)による本屋対談。「Title」のゆるやかな空間でお二人が、「読書人口が少なくなった」「本屋の數が減っている」というネガティブな情報の裏に今も変わらず息づく「本への愛」を語ります。

※)対談は2020年3月10日に行いました。2020年5月13日現在、「Title」は短縮営業、「BOOKSHOP TRAVELLER」は臨時休業しています。最新情報は各店舗のWebサイトをご確認ください。

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細胞が入れ替わるように毎日新しい本が更新されていく店

細胞が入れ替わるように毎日新しい本が更新されていく店
和氣
お久しぶりです、今日はよろしくお願いします!
辻山
よろしくお願いします。
和氣
早速なんですが、最近読んだ本でよかったのはどれですか?
辻山
そうだな…アフリカ系アメリカ人作家のナナ?クワメ?アジェイ=ブレニヤーによる『フライデー?ブラック』(駒草出版)はよかったですよ。
和氣
鹿子裕文さんの『ブードゥーラウンジ』(ナナロク社)は?
辻山
あ、あれもよかった!
「BOOKSHOP TRAVELLER」店主の和氣正幸さん、「Title」店主の辻山良雄さん
寫真左から「BOOKSHOP TRAVELLER」店主の和氣正幸さん、「Title」店主の辻山良雄さん。Titleのオープン前にカフェスペースでお話を伺った

いきなり情報交換が始まっていますね(笑)。和氣さんは、以前からTitleに訪れていたのでしょうか?

和氣
もちろん。いつ來ても、Titleはインディペンデント系本屋の究極系 だと感じます。「自分の書店を持ちたい」と思う人なら、Titleはきっと誰もが參考にするお店だと思うのですが、誰にもまねをすることができない んです。

普通、自分で本屋さんをつくるとなった場合、どうしても自分の好きなものや得意なジャンルに偏ってしまいます。しかし、Titleにはその偏りがありません。 いろいろなジャンルが網羅されていて、しかもそれらの情報が常にアップデートされている んです。
辻山
本屋を営んでいくためには、多くのお客さんに足を運んでもらわなければなりません。店主の好きな世界を前面に押し出すと、それが當てはまる人であれば、「俺のための店だ」と感じてくれますが、その一方で、趣味の合わないお客さんには「自分とは関係のない店」になってしまう。

それに、趣味の合うお客さんでも2回も3回も來ると、當初に抱いた感動は薄れてしまいます。そのため、さまざまジャンルを取りそろえながら、常に中身を更新していくことが大事 なんです。
辻山良雄さん
和氣
言葉にすると簡単なことのように聞こえますが、実行に移すためには大変な努力が必要ですよね。
辻山
はい(苦笑)。本屋って、ぱっと見の印象はいつも同じなのですが、そこに並ぶ本はいつも異なっている。生物學者の福岡伸一さんは、著書の中で 生命の定義を「動的平衡(※)」と語っていますが、生命の細胞が入れ替わるように本屋でもいつも本が入れ替わっていく ことが大切です。

今、Titleには1萬冊ほどの本が並んでいます。しかし、新刊書籍は毎日300冊くらい出版されており、ここに入っているのは市場に出た本の100分の1もないでしょう。けれども、この店には入荷しなかった99冊についてもできるだけ知っている必要がある。100冊を知った上で「この1冊」を入れていることを意識しなければ、バランスの悪い本棚になってしまう んです。

※)ミクロに見ると常に変化しているが、マクロで見ると変化せずに平衡に達している狀態

Title 店內
入り口近くの平棚に並ぶのは新刊や話題の本の他、Titleでのトークイベントに関連した本など。小さな店內に雑誌や児童書、文庫本、リトルプレスまで幅広い種類の本が集まっている

「他の99冊ではないこの1冊」を並べることで、Titleの「平衡」が保たれている。辻山さんにとって、このお店はまるで生き物のような存在なんですね。

辻山
はい。Titleを開店して5年がたちましたが、年月を重ねていくと、本も入れ替わっていくし、お客さんも入れ替わっていきます。そういった 入れ替わりを通じてお店が育っていく んだ、と感じるようになりましたね。
Title 店內
TitleのWebサイトでは、辻山さんが1日1冊、本を紹介する「毎日のほん」が更新されている

ところで、近年、出版業界は斜陽産業と言われており、多くの本屋が廃業に追い込まれています。そんな市場環境についてはどのように感じていますか?

辻山
業界全體が數字として下がっているのは事実です。けれども、売り上げデータや市場動向といった數字のイメージに左右されすぎているようにも感じます。俯瞰した數字で判斷すると「右肩下がり」かもしれませんが、現場に立っていれば売れている本もあるし、話題になったり気になる本も常に無數にあるんです。

何より現場で見ていると、お客さんは熱心に本に接していることがよく分かります。業界全體の數字よりも、そうした本を積み重ねて一から売り上げを作っていくことが、本屋にとっての本質 だと思うんです。

辻山さんセレクト
「Titleをつくる上で指針となった一冊」

書影

『コルシア書店の仲間たち』須賀敦子著(文春文庫)

「本屋はただ本を売る場所ではない。本を読む人書く人が行き交う、物語のある場所なのだ。こうした店をつくりたいと憧れた一冊」

本屋ライターが開いた「本屋を紹介する本屋」

本屋ライターが開いた「本屋を紹介する本屋」

和氣さんは、本屋ライターとして『日本の小さな本屋さん』(エクスナレッジ)や『東京 わざわざ行きたい街の本屋さん』(G.B.)など、本屋に関する數々の著書を執筆するとともに、本屋を紹介するポータルサイト「BOOKSHOP LOVER」を運営しています。これまで、どれくらいの數の本屋を取材してきたのでしょうか? また始めたきっかけは?

和氣
全國で合計300軒以上 になると思いますね。以前、本とは全く関係のない一般企業で會社員をしていたのですが「獨立して本屋をつくりたい」と考え、そのリサーチとしてさまざまな本屋を紹介し始めたのが、本屋ライターとして活動を始めるきっかけでした。
BOOKSHOP TRAVELLERの店內
全國の個性的な「本屋」が出店する棚が並ぶ「BOOKSHOP TRAVELLER」の店內。(寫真提供:和氣正幸)
當時は大阪に住んでいたので、京都の古書店の紹介から始めました。個人書店の店主にはとても面白い人が多く、本屋だけでなく魅力的な店主に出會えるのもこの仕事の醍醐味 で、「うまくいけば取材自體が仕事になっていくかも!?」という淡い期待もありつつ(笑)、どんどんハマっていきました。

最近では、本屋さんだけでなく、本屋さんを起點に旅をする「ブックショップトラベル」と稱して旅行の方法も紹介 しています。地方にある魅力的な本屋を目當てに旅行をして、本屋の店員さんにおすすめのスポットやおいしいものを聞く。そうすれば、間違いなくその土地の魅力的な場所に出合うことができるんです。
日本の小さな本屋さん 表紙
和氣さんの著書『日本の小さな本屋さん』(エクスナレッジ)。日本全國のわざわざ行きたい小さな書店を取材し、紹介している

本屋を目當てに旅行?

和氣
はい。中でも、おすすめは広島県の尾道ですね。尾道は、空き家再生プロジェクトが活発な街で、空き家でカフェやパン屋をはじめる若者も多いんです。そんなこともあって変わった本屋が何店かあります。

例えば、本屋「弐拾dB」は、夜23時に開店するお店。元醫院の建物を改裝した店內には、文學から実用書、コミックといったものまで幅広く取りそろえられています。また、その近くにあるゲストハウス「あなごのねどこ」の奧には、「本と音楽 紙片」というお店があります。詩や小説、エッセイ、絵本などが並ぶ店內には、本だけでなくCDも販売されており、オリジナルのコンピレーション?アルバムも制作しているんですよ。

和氣さんは、本屋ライターとしての活動と並行して、2018年から下北沢で本屋「?BOOKSHOP TRAVELLER」を営んでいますね。これは、どのようなお店なのでしょうか?

和氣
「BOOKSHOP TRAVELLER」は一般的な書店ではなく、全國各地の本屋さんに聲を掛け、店內に置かれた小さな棚にそのお店らしいセレクトで本を並べてもらった本屋 です。いわば「本屋のアンテナショップ」ですね。

このお店は「アンソロップ」というカフェの奧で営業しているんですが、もともとは、カフェのオーナーから「本に関する店をつくりたい」という相談を受けたことがお店を始めるきっかけでした。しかし、下北沢には大手チェーンの「三省堂書店」があるし、個人書店として有名な「B&B」もある。そこで、自分らしい本屋をつくらなければいけないと考え、「本屋を紹介する本屋」というコンセプトが生まれました。
和氣さん
和氣さんのほかに出店している本屋のオーナーが店頭に立つ日を作るなど、「BOOKSHOP TRAVELLER」獨自のコミュニティを生かした積極的な企畫を打ち出す。(寫真提供:和氣正幸)

まさに、全國津々浦々の本屋を巡ってきた和氣さんだからこそできるお店ですね。

和氣
僕は、スピード感を持って仕事をするのが苦手だし、何かを追ったり、何かに追われたりするのも好きではない。それこそ、辻山さんのようにいろんなことにアンテナを張って、新陳代謝を上げながら、自分自身で良い棚を維持し続けるのは難しいだろうな、と思ったんです。

そこで、マイペースに自分だけができることを目指していったところ、無店舗/実店舗で本を売る人や出版社、著者、zine作家、ブックカバー作家など「本に関する活動をする人たち=広義の本屋」のコミュニティーとなるようなお店の形になっていったんです。
和氣さん
當初8店舗くらいから始めた棚も現在は75店舗になり、この春の改裝からいったんストップしていた間借りの募集を再開して100店舗を目指します。開店から2年を経てだんだんと下北沢でも知られるようになってきたし、店內で開催する「ブックショップトラベル報告會」といったイベントにも數多くの人々が足を運んでくれるようになっていますね。

和氣さんセレクト
「仕事をしていくにあたって指針となった一冊」

書影

『プラネテス』幸村誠作(講談社)

「主人公の八郎太が、さまざまな局面に直面してもなお強く生を生きていく意志を感じて、仕事というか生き方みたいな部分で指針の一つになっています」

本屋は「世界の広がり」を教えてくれる場所

本屋は「世界の広がり」を教えてくれる場所

ところで、お二人はどのようにして本屋の世界にのめり込んでいったのでしょうか?

辻山
親の影響もあって、子どものころから「本を読むことは良いことだ」という意識はありました。それでも高校生までは地元の本屋に通う程度。早稲田に入ると高田馬場の「芳林堂書店」など、大型書店に足を運ぶようになりました。

はじめは人気作家の本しか目に入っていなかったのですが、書店に入り浸るようになってくると、哲學や歴史、文學など、いろんな種類の本があることに気付かされる。そして、毎日1~2時間も本屋で時間を過ごすようになっていったんです。

本屋で過ごす時間の、どのような部分にかれたのでしょうか?

辻山
本屋にいると、昔の日本映畫についてだったり、遠い外國の話であったり、いろいろな世界に觸れることができます。そんな世界の広がりを感じられたのはとても大きな魅力でしたね。

また、本屋には獨特の自由な雰囲気 があります。本の売り場でありながら、買わないで立ち読みをし続けていても、思索にふけっていても文句を言われない。

例えばTitleでも、友達としゃべりながら入ってきたお客さんが、本が並んでいるのを見ると、ふと黙ってしまう。そしてそれぞれの世界に入り、それぞれが好きなものを見ていくんです。他人に合わせるのではなく、自分が求めていたものを並んだ本の中から見つけていく。少し靜かで、その人自身に戻れるような場所が本屋 なんです。
シャクシャインの戦い
ローカルに活動する小さな出版社の本との出合いがあるのもTitleならでは。例えば『シャクシャインの戦い』を出版する「壽郎社」は、社會派ノンフィクションやルポルタージュなど人文系の書籍を多く手掛ける北海道の出版社だ

和氣さんはいかがでしょうか?

和氣
僕の場合は、大學時代に先輩の誘いで、高田馬場の「BOOKOFF」でアルバイトをしたことが本屋に目覚めるきっかけ。ここは、大學の近くという立地もあり、他では見たことがないような珍しい本が數多く集まっていたんです。そんなお店で仕事をしていると、世の中にはいろいろな本があり、その分だけいろんな仕事や生活がある、ということに気付かされました。

聞いたことがないようなジャンルの學問があり、それを研究して本にしている人がいる。そんな、自分が觸れたことのない人々の姿がぼんやりと浮かんできたんです。
和氣さん

本の向こう側に、「人」を感じていたんですね。

和氣
はい。自分で本屋に足を運んでも、興味のない棚をまじまじと見ることはあまりありませんよね。バイトとして古本に觸れていたからこそ、そんな 自分の知らない世界の魅力に気が付いた んです。

では、本屋の楽しさを感じられるようなおすすめの本屋はありますか?

和氣
小さな本屋だと、上野にある「ROUTE BOOKS」が面白いです。このお店は、工務店が経営しているのですが、既存の書店にはない自由さがある。本屋では普通、水は厳禁なのに、「ROUTE BOOKS」では本と観葉植物を並べて売っている。また、マルシェを開催したり、本屋の中で鉄工のワークショップや消防士による救命ワークショップを開催するなど、普通の本屋にはない空間が広がっているんです。

大型書店では「ジュンク堂」の池袋本店 もいいですよね。特に 1階には、リトルプレスやZINEのような個人や団體が自らの手で制作した少部數の出版物も並んでいます。あそこまで小規模な出版を取りそろえているお店はめったにありません。
辻山さんと和氣さん
辻山
そうですね、同じく大型書店だと學生には「紀伊國屋書店」の新宿本店 がいいと思います。大型書店だからひと通りどんな本でもそろっているので、本の世界の全體を知るにはぜひ一度そこで思いっきり時間を過ごしてみると面白いと思う。

興味のあるコーナーだけでなく、店內をくまなく見ていくことによって、「こういう世界があるんだ!」と、知らない世界に出合うきっかけを與えてくれる と思いますよ。

辻山さんセレクト
「いま、大學生に読んでほしい一冊」

書影

『旅をする木』星野道夫著(文春文庫)

「いまこうしているあいだでも、遠い北海道ではクマの親子が悠々と歩き、僕たちはそれぞれの時間を生きている。世界は一つではない。旅に出ることはそれを教えてくれる」

INFO

??Title

住所  : 東京都杉並區桃井1-5-2

TEL   : 03‐6884‐2894

営業時間: 12:00~21:00
(CAFEのL.O.20:00)

定休日 : 水曜?第3火曜

※最新情報はWebサイトにてご確認ください
https://www.title-books.com/

INFO

??BOOKSHOP TRAVELLER

住所  : 東京都世田谷區北沢2-26-7
アパートメントストア1階

営業時間: 10:00~19:00

定休日 : 水曜?木曜(不定期)

※最新情報はWebサイトにてご確認ください
https://wakkyhr.wixsite.com/bookshoptraveller/

プロフィール
プロフィール

辻山 良雄(つじやま?よしお)

東京?荻窪の書店「Title」店主。1972年兵庫県生まれ。早稲田大學政治経済學部卒業後、大手書店チェーンリブロに入社。広島店と名古屋店で店長を歴任後、2009年より池袋本店マネージャー。15年の同店閉店後退社し、16年1月、新刊書店「Title」を開業。定期的に開催されるイベント、ギャラリー展示も人気。著書に『本屋、はじめました 増補版』(ちくま文庫)、『365日のほん』(河出書房新書)。共著に『ことばの生まれる景色』(ナナロク社)。@Title_books

和氣 正幸(わき?まさゆき)

本屋ライター。1986年東京都生まれ。東京?下北沢にある本屋のアンテナショップ「BOOKSHOP TRAVELLER」店主。早稲田大學第一文學部卒業。インデペンデントな本屋の情報?ルポを発信するWebサイト「BOOKSHOP LOVER」を運営しながら、さまざまな本にまつわるイベントも主催。著書に『東京 わざわざ行きたい街の本屋さん』(G.B.)『日本の小さな本屋さん』(エクスナレッジ)、共著に『全國旅してでも行きたい街の本屋さん』(G.B.)、『全國 大人になっても行きたいわたしの絵本めぐり』(G.B.)。@wakkyhr

取材?文:萩原 雄太

1983年生まれ、かもめマシーン主宰。演出家?劇作家?フリーライター。早稲田大學在學中より演劇活動を開始。愛知県文化振興事業団が主催する『第13回AAF戯曲賞』、『利賀演劇人コンクール2016』優秀演出家賞、『淺草キッド「本業」読書感想文コンクール』優秀賞受賞。かもめマシーンの作品のほか、手塚夏子『私的解剖実験6 虛像からの旅立ち』にはパフォーマーとして出演。http://www.kamomemachine.com/
撮影:白井 晴幸
編集:橫田 大、裏谷 文野(Camp)
デザイン:中屋 辰平、林田 隆宏
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